インプラントとは?


インプラントとは、歯の失われた部分のあごの骨に、 人工の歯根を埋め込む治療法です。
インプラントの研究の歴史は50年近くになり、 現在の方法が確立して20年近くになります。 一般的な処置として広まってきたのは この10余年となりますが、その間の症例の蓄積によって、 安全性・長期安定性も高まってきています。
インプラント治療には多くのメリットとともに、 いくつかの欠点もありますが、 そういった、インプラントの具体的なご説明の前に、 まずは、歯が失われた部分に対するほかの処置法との 比較からご説明してゆきます。

歯牙欠損修復治療法1
:ブリッジ:

ブリッジ
ブリッジとは、その名のとおり、失われた歯の両隣の歯を橋げたに使って、 失われた部分に人工の歯冠を橋渡ししてかみ合わせや審美性を回復する方法です。
使用する材料によっては保険が使えないこともありますが、基本的に保険適応で、 少数歯欠損症例ではもっともポピュラーな方法といえます。
逆に言うと、多数歯欠損症例では支えとなる歯への負担が大きすぎるため、 適応症例が限られます。
また、両隣の歯を削ってかぶせないといけないことやブリッジ部の清掃性が悪くなること、 少数歯欠損症例であっても橋げたとなる歯への負担が大きくなることは避けられない、などの理由から 支えとした歯や歯茎を傷めることがあります。



歯牙欠損修復治療法2
:義歯(入れ歯):

義歯
失った歯が多数歯に及ぶ場合など、ブリッジ以外の方法として選択されることの多い方法で、 ブリッジと同じく、基本的に保険適応です。
ブリッジと比較すると、人工の歯の下に床がついているので 咬む力が両隣の歯だけではなく粘膜にも分散されるので、歯に対する負担は少なくなります。
難点は、やはり健康な両隣の歯に、留め金を引っ掛けるので歯への負担が避けられないことや
留め金ゆえの清掃性・審美性の悪さがあげられます。
また、取り外せるがゆえに、はずして洗わなければならないことや 逆に外れてしまうこと、床がついていることによる異物感も、 その構造ゆえに避けえない欠点となります。
欠損歯数が多くなるにつれて口腔内の粘膜面を覆う面積も大きくなってゆき、 食事の際に食べ物の食感や味覚・温度感覚を感じにくくなり 食事が味気なくなる、という声はよく耳にします。

歯牙欠損修復治療法3
:そのままにしておく:

見た目・食事などに特に問題がない場合、一時的には そのままにしておくのもひとつの方法です。
親知らずを抜いた場合や最後方臼歯の場合に多い対処法です。
しかし、抜けた歯の位置によっては、かみ合わせの歯が伸びてきたり、 隣の歯が倒れこんできたりすることで、咬みあわせがずれることがあります。
そうすると、将来、咬みあわせを直そうとした場合に処置が難しくなることがあります。
仕事などの生活サイクルの都合で、すぐには抜けた歯の処置ができないことはありえると思います。
そういう場合は、生活サイクルが変化した時点で、できるだけ早期に処置を受けるか、 あるいは応急的な処置だけでも受けておくと、後のトラブルを少なくすることができます。



インプラント

まずは、インプラントの構造をご説明します。
当院で使用するbicon(c)社のインプラントは 図のように3つの部分で成り立っています。
インプラントの構造

「インプラント体」は、天然歯の歯根に相当します。
直接骨に埋め込まれるものなので、 インプラント体は生体親和性が強いとされるチタンを原料に作られています。
天然歯の歯冠に相当する部分は、普通の歯に行うかぶせものと同じものです。
そして、インプラント体とかぶせをつなぐのが、「アバットメント」という軸です。
当院で使用するbicon(c)社のインプラントは インプラント体とアバットメントとの接合部にねじを使わない、非常にシンプルな構造をしています。これは、人工股関節の接合部にも用いられる構造です
ねじを使う構造の場合、経年的にねじが緩むことで、外れたり緩んだところから感染を起こしたりすることがあります。bicon(c)社のインプラントは この点を解消した、独自の形状を持つインプラントです。

インプラントの長所

インプラントには多くの長所があります。そのいくつかをご説明します。

1 骨に結合するので、よく咬める。
上記のとおり、インプラントは骨に埋め込まれて結合しているため、 ほかの欠損治療法に比べて安定性に勝ります。
そのため、天然歯と同じように咬むことができるといわれています。

2 周囲の健康な歯に負担をかけない
ブリッジや義歯は、周囲の歯を固定源とするため、必然的に周囲の歯に負担をかけます。
それは、力学的な負担であったり、清掃性が悪くなる、という負担であったり、 削らないといけない、という負担であったりします。
しかし、インプラントだけは、失われた歯根に置き換わる治療法なので、 健康な周囲の歯に負担をかけることはありません。
もっとも予防的な欠損治療法だ、と言えます。

3 欠損歯が1本から多数の場合まで対応できる
前述のとおり、インプラントは失われた歯根に置き換わる治療法なので、
欠損歯数にかかわらず対応できます。
基本的には1欠損歯に対して1本のインプラント埋入を行いますが
多数歯欠損の場合には数本のインプラントを、
取り外し義歯の固定源として利用することもできます。



インプラントの欠点

インプラントには大きなメリットがありますが長所ばかりでなく、当然欠点もあります。

その1つ目は保険適応外だということです。
材料代のほか、手術の費用も含めると、保険のブリッジや義歯と比べると 金額的な負担は大きくなります。
そして、この先インプラント治療が保険適応となることはないと考えられます。
余談ですが、現行の保険医療制度はこのままでは立ち行かなくなるとさえ言われており、 将来的には、現在は保険適応であるかぶせや義歯でさえも、 保険の枠から外されてしまうかもしれない、といわれています。
第2の欠点は手術が必要である、ということです。
インプラントは骨に人工歯根を埋め込む治療法なので、そのためには手術が必須です。 手術は虫歯の治療や抜歯と同じ局所麻酔で行い、 埋入するインプラントの本数にもよりますが、1時間程度で終了します。 術後数日間腫れや痛みがあるようですが、 その多くは普通抜歯後の痛みと同程度とされ、鎮痛剤の使用で不快症状は緩和されます。
第3の欠点は、天然歯と同じように、メインテナンスを行わないと歯周病になる、ということです。
人工物であるインプラントが歯周病にあるというのは、いささか妙な感じがあるかもしれませんが、事実です。
正確には歯周病ではなく「インプラント周囲炎」という病名で呼ばれますが、 その原因から対処法まで、歯周病とほぼ同じです。
インプラント周囲に歯垢が残ることで歯肉に炎症が起こり、 その状態が続くことでインプラントを支える骨が吸収を受けてしまいます。
支える骨が少なくなると、たとえ骨と結合したインプラントであっても、 歯周病にかかった天然歯と同じように、揺れたり膿んできたりする恐れがあります。
予防方法も、天然歯と同じく、普段のお手入れと定期的なメインテナンスです。
乳歯・永久歯に続く「第3の歯」と呼ばれることもあるインプラントですが、 金属でできているので当然虫歯にはなりません。
しかし、構造が天然歯に近似しているために歯周病のような状態になる可能性があるのは、 ある意味欠点といえるかもしれません。

インプラント治療の流れ

1 診査・診断
インプラントの埋入が可能かどうか、可能であればどの位置に植立するのが適切かを判断するために 口腔内診査および型どりをして模型上での診断、ならびにレントゲンによる骨の状態の確認を行います。
当院では、最新の歯科用CTを導入しているため、あごの骨の形や骨質を精細に確認できます。
インプラント手術でのトラブルの大半は、CT撮影を行わず、コンピューター上でのシミュレーションなしに手術に望んだために起こるとされています。

2 治療計画のご提案
診断結果を元に、どの部位の、何本のインプラントを使用し、どのような人工歯を作成してゆくのかをご提案します。

3 1次手術
インプラントの手術は、基本的に2回に分けて行います。
1回目の手術では、インプラント体を骨の中に埋め込みます。
手術は、一般的な歯の治療で使用するのと同じ局所麻酔で、十分な鎮痛効果が得られます。 麻酔が効いていることを確認したら、最小限の粘膜切開を行い、 骨に専用の器具でインプラントと同サイズのインプラント窩を形成、 その中にインプラント体を埋め込みます。
時間は1時間程度です。

4 治癒を待ちます。
インプラント体が骨と結合して固定されるのを待つため、 3-6ヶ月間の期間をおきます。
この間は、必要であれば仮歯・仮義歯を使用します。

5 2次手術
2回目の手術では、埋め込んだインプラント体にアバットメントを装着します。
インプラント体の上部を露出させるために、今回も麻酔を使用して粘膜切開を行います。
アバットメントの装着は30分ほどで終了します。
ここでも必要であれば、仮歯を使用します。
粘膜の治癒期間はおよそ2ヶ月前後です。

6 人工歯作成
通常のかぶせの作成と同様に、型どりを行って人工歯を作成し、セメントで固定します。

以上がインプラント治療の流れです。